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サウナを科学する! 第2回

医者が教える“ととのう”の正体とサウナの効果#02

医者が教える
〝ととのう〞の正体とサウナの効果

空前のサウナ・ブームの昨今。

医者の立場からサウナを科学し、発信している加藤容崇氏に、サウナの健康的効果、〝ととのった〞とき、人の体はどんな状態になっているのか?
どのような入り方が〝ととのい〞やすいのか? 
など、医師ならではサウナに関する見解を伺う集中連載。

第2回は、〝ととのう〞について。

〝ととのう〞っていうのは、人間が作った言葉であって、様々な状態を指すと思うんです。

ですので、一義的に決められるものじゃないと思いますが、今のところ、私の仮説としてひとつの側面があるとしたら、自律神経を急激にスイッチングすることによって、いつもと違う感覚が訪れるということだと思います。

具体的に言うと、サウナって基本的にとても熱いですね。
ずっと入っていたら多分、死にますよね(笑)。
水風呂も1〜2時間、裸で入っていたら死んでしまうでしょう。

サウナと水風呂は、人体としては非常に過酷な状況なんです。
だから体がこれに適応しようとして交感神経が働きます。

要するに『今いるところはピンチだ。脱出せよ』というシグナルが発せられ、ホルモンなどにより神経学的な変化が訪れて適応しようとするんです。

ところが急激に外気浴という快適なところに行くと、もう危機を脱出したのかもしれないと体がホッとするんです。

そのときに、副交感神経というリラックス側の神経がとても活性化してきて、急激にスイッチングします。

photo/pixta

ホルモンというのは血中に流れている物質なので、肝臓で代謝されるのに結構時間がかかります。

つまり神経はリラックス側にスイッチングしているんですけど、ホルモン=アドレナリンは、まだ血中で効果がある状態です。

アドレナリンは、興奮物質=交感神経系なので、それが一時的に共存します。
日常生活では、そんなに急激にスイッチングすることはありえません。
サウナから水風呂入って、その直後の休憩の時に共存するので、いつもと違う感覚、具体的には、神経的にはすごくリラックスしていながら、妙にはっきりしている感覚になります。

そんな、本来、共存しないような状態が共存するというのが〝ととのう〞という異常な状態ではないでしょうか。

落ち着いてきたら風呂上がりの気持ち良さと同化してしまうと思いますので、実際は1〜2分ぐらいしか感じないと思います。

〝ととのう〞のメカニズム

1. とても熱くて
過酷なサウナ

律神経の活動が副交感神経(リラックス側の神経)の上昇から交感神経に上昇に切り替わる。

2. とても冷たくて
過酷な水風呂

律神経の活動が副交感神経(リラックス側の神経)の上昇から交感神経に上昇に切り替わる。

3. とても
快適な外気浴

自律神経の活動が副交感神経が活性化する。

水風呂に長く入りすぎる、サウナに長く入りすぎる、そんなやりすぎる人たちがいます。

彼らが、ぼーっとしているのは、失神に近いです。

自律神経で、たとえばショックなものを見たときに、めまいを起こし、倒れますよね。
それは神経が、その調節に追い付かなくて失神するんですが、それに近いですね。
柔道などで落ちる前の気持ち良さみたいなもので、危険です。

一番わかりやすいのが、皮膚がまだら状になるいわゆる〝あまみ〞です。

これは〝ととのう〞の指標にある程度なります。サウナーの「あまみがめっちゃ出た。ととのった」っていうのは案外正しいんですね。

安全対策と反発してしまう考えですが、急激な自律神経のスイッチングがキーポイントです。

とても熱いところに行って、冷たいところに行き、パッと休憩するのが一番、〝ととのう〞を実感しやすいんですけど、それをすると血圧が乱高下するので、やはり運動と一緒で、リスクが高いですよね。

ですので、基礎疾患がある人、リスクがある人は、やらない方がいいですね。この方法は、若く丈夫な人に限定されますね。

もうひとつ言えるとすれば、あんまり高い頻度でサウナに入らないということですね。

健康効果を得るためには週に4回以上入った方がいいですけど、そうすると逆に、〝ととのう〞ことを実感しづらくなります。〝ととのイップス〞って私は呼んでいるんですけど、毎日入ってると、その感覚が段々なくなってくるんですよね。

自律神経を測る装置があるのですが、私を含め3人で、1セット(サウナ → 風呂 → 外気浴)ごとに自律神経の数値を測定したことがあります。

私は毎日サウナに入るので、高頻度に入る人、中間ぐらいの頻度の人、全然入らない人という3人で皆、同じぐらいの年齢です。

すると、私は最初から高い数値でした。つまりすでにととのっていたんですね。

ととのわないんじゃなくて、入る前から〝ととのっていた〞わけです(笑)。その差がわからないだけなんですね。

ですので、実感したければサウナをしばらくやめてみるのがいいかと(笑)。これがもうひとつの安全な〝ととのう〞を感じるコツかもしれないです。

あるいはすごく疲れてみるとか、自立神経をすごく乱れてみるとか(笑)。

自律神経は、ストレスを感じると乱れがちになるんです。
とても腹の立つことがあったりすると乱れるので、そのタイミングでサウナに行くのもひとつの手かもしれないです。


次回に続く


かとう やすたか


慶應義塾大学医学部特任助教
日本サウナ学会代表理事

北海道大学医学部医学科を経て、同大学院(病理学分野専攻)で医学博士号取得(テーマは脳腫瘍)。
北海道大学医学部特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部附属病院腫瘍センターにて膵臓癌研究に従事。

帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターや北斗病院など複数の病院に勤務。
専門はすい臓がんを中心にした癌全般と神経変性疾患の病理診断。

サウナをはじめとする世界中の健康習慣を最新の科学で解析することを第二の専門としている。
サウナを科学し発信していく団体「日本サウナ学会」を友人医師、サウナ仲間と作り、代表として活動中。

著書に『医者が教えるサウナの教科書』(ダイヤモンド社)、『医者が教える究極にととのうサウナ サウナ大全』(ダイヤモンド社)がある。